つれづれ映画日記・読書日記

日々の映画鑑賞や読書の感想を綴っています

急に具合が悪くなる

私たちを取り巻く社会を考える


本作は、札幌ではシネコンでの上映を終えているのですが、シアターキノで上映を始めてくれていたので、やっと見ることができました。
私、3時間以上というような長い作品は、見る前にそれなりの覚悟を要するので、苦手感があります。
きっと途中で眠くなると思ってしまうので。
しかし、本作についてはその心配は杞憂で、196分、しっかりと目と耳を澄まして作品世界に浸らせていただきました。

 

さて、本作は実話を基にしています。
がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者、宮野真生子。
そして、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者、磯野真穂。
この二人が交わした20通の往復書簡「急に具合が悪くなる」を原作にしているのです。

 

その原作から大きく設定を変えて、主人公のひとりはフランス人。
パリ郊外の介護施設「自由の庭」施設長、マリー=ルー・フォンテーヌ(ビルジニー・エフィラ)。
入居者を人間らしくケアすることを理想としていますが、現実問題として、人手不足やスタッフの無理解に悩んでいます。

そんな彼女が日本人の舞台演出家、森崎真理(岡本多穂)と出会う。

真理はがんで余命宣告を受けていて、でも当初の余命期間をかなりすぎている今も、とりあえず生きながらえているのです。
でも、いつか急に具合が悪くなって、その後は進行が速いと医師に言われている…。

ふたりは同じ名前の響きを持つ偶然に導かれ、交流を深めていきます。

 

マリーは、日本に留学した経験があって、かなり流ちょうに日本語を話します。
真理は逆にフランス留学経験があってフランス語も流ちょう。
なので本作中も日本語とフランス語がくるくると入れ替わって会話が交わされるのですが、不思議とそのことに全くストレスは感じません。
その言葉が意味する真実をしっかりイメージできるから。

原作と変えて、二人が国籍の違う二人という設定にしたことがすごく成功していると思います。
個と社会の在り方、それは国が違っても同じなのだというグローバルな視点がそこにあります。
老人施設や、知的障害者のこと、抱える問題点は日本もフランスも同じ。

 

フランスでの、精神病院をなくして、社会の中に彼らを溶け込ませるという取り組みについては、そういえば以前ドキュメンタリー映画を見ました。
「アダマン号に乗って」というもの。
興味がありましたら、ぜひどうぞ。

本作での、認知症の老人についても同じ考え方ができるのではないか、という問いかけもいいですね。

poppo0855.hatenablog.com


私はこの二人が、少子高齢化のことから始まる、資本主義社会の成り立ちについての論議をするところに、しびれてしまいました。
内容についても、ものすごく示唆に富んでいて納得させられます。
目からうろこが落ちるような…。

こんな話を真剣に論議できる二人の関係もステキです。
なんと二人はあったばかりのその日にその話をするのですよ。
名前もよく似ていながら、考え方というか、魂の形が似ているのかもしれません。

けれど、その片割れはまもなくこの世を去ろうとしているなんて。
切ないけれど、最後までその生を全うしようとする真理さんも強いなあ…。

 

自閉症の青年を演じた黒崎煌代さん、ナイスでした!!

本作は確かに長いです。
けれど、どのシーンも必要で、あるべくしてそこにある。
眠くなるヒマなどないのでした!!

 

<シアターキノにて>

「急に具合が悪くなる」

2026年/フランス・日本・ドイツ・ベルギー/196分

監督:濱口竜介

原作:宮野真生子、磯野真穂

脚本:濱口竜介、ルディムナ玲亜

出演:ビルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代、
   ジャン=シャルル・クリシエ、マリー・ビュネル


世界認識度★★★★★

友愛度★★★★★

満足度★★★★★